成年後見制度と相続放棄
成年後見制度を利用して相続放棄ができるか、という相談があった。
答えはNOだ。
成年後見制度は被後見人(意思能力の程度に応じて、被後見人、被保佐人、
被補助人)と呼ばれる人を保護するための制度であり、
被後見人に相続の権利が発生した場合、絶対にその人に法定相続分は確保される。
もちろん亡くなった人に借金が多く相続財産がマイナスになる場合は、
家庭裁判所に相続放棄を後見人が申し立てすることになるのだが、
プラスになる場合は、家庭裁判所の相続放棄の手続きも、
遺産分割協議と言われる話し合いの中で放棄(何も相続しない)もできない。
では、どのような場合にそんな話になるのか?
パターン①
子供のいないご夫婦のどちらかが亡くなった場合、
相続人は亡くなった人の配偶者と両親である。
また、両親がともに相続放棄した、または既に亡くなっていた場合には
相続人は配偶者と兄弟姉妹になる。
配偶者のためを思い、亡くなった人の財産はいらないからということで
相続人である両親や兄弟姉妹が放棄してあげようとしても、
その中に被後見人が含まれている場合は
その人は法定相続分を相続することになる。
相続人の中に認知症の人でまだ成年後見制度を利用していない人がいた場合でも、
その人は遺産をどうわけるかの話し合い(遺産分割協議)ができないので、
成年後見制度を利用することとなり、同様の結果となる。
パターン②
母親が被後見人(または認知症など意思能力の低下状態)で既に施設に入っている場合、
父親が亡くなり自宅不動産を母親が相続すると
売却などの契約ができないため、不動産は実質凍結状態となる。
父親が一人で住んでいた場合は、自宅は空き家となる。
空き家になるのを避けたいと考え、子供が自宅を相続し売却しようとしても
自宅は母親にとって大切な居住用財産(本人が希望すれば帰るべき場所)なので、
後見人や家庭裁判所の判断は母親が自宅を相続すべきということになる。
また、相続財産が自宅以外にない場合はそもそも自宅を相続させざるを得ない。
このように成年後見制度では他の家族、親族の思うように
自由に相続などの財産承継ができない場合があります。
ご家族の構成や財産の状況に応じて、
成年後見制度や生前贈与、遺言、家族信託などの制度を
うまく利用されることをオススメします。